企業独自の設問の目的
ESの設問として、以下のようなものが一般的です。
- 趣味・特技
- 長所・短所
- 語学
- 志望動機
- ガクチカ
しかし、これらの設問は大半の企業で使われているため、同じ業界にある企業であれば使い回すことが可能です。実際、就活と研究に追われる多くの学生は文章のほとんどを使いまわしていることでしょう。
しかし企業としては自社に志望度が高い学生が欲しいということも事実です。
そこで企業、特にエントリー数の多い大企業では、回答を使い回すことができない企業独自の設問を作っています。志望度の低い学生であれば、その設問を見て『面倒くさい……』と思いエントリーを躊躇することでしょう。そうやって志望度の低い学生をふるいにかけているわけです。
企業独自の設問はどんなもの?
企業独自の設問と言っても、そこまで面倒くさいものはありません。
以下に企業独自の設問の一例を示します。
「今、世界中でこんなこと私しか考えていないだろう」と思うことを教えてください。(日清食品)
野菜嫌いな友達がいます。あなたならどうやってその友達に野菜を摂取してもらいますか?(カゴメ)
2021年「味の素(株)」が社名を変更することになるとしたら、あなたはどんな社名を付けますか?理由と併せ、200字以内で記述してください。(味の素:)
右の9つのワードのうち3つ以上のワードを用いて、自由に文章を作成してください。 物語、詩、自分の考えなどどんな内容、表現方法でも結構です。 < 科学/誠実/デザイン/雨/仮想/牛/ロス/#/IQ >(旭化成)
大企業が中心に行っているためか、やや遊び心に満ちた設問が多いです。文字数もそこまで多くなく、大喜利に近い設問もあったりします。
回答するだけであれば、大した時間はかからない一方で、大企業であるがゆえに、多くの就活生がエントリーしています。そのため、他の就活生と差のある回答をするためにはある程度考えて回答する必要がありそうです。
お茶目な設問をする企業はホワイト企業と噂される企業が多い気がするね
回答で気を付けること
まず、独自の設問で合否が大きく左右されるということはありません。
最初にも言った独自の設問で志望度の低い学生をふるいにかけることのほかに、面白い設問で就活生を楽しませることが独自の設問を設ける大きな理由です。
そのため、特別難しく考える必要はありません。が、あくまでESの設問の一つということを念頭に置くと、以下のことに気を付ける回答すると良いでしょう。
- 文章として成り立っていること
- 筋が通っていること
- 他の就活生にない回答をすること
特に3番目は独自設問だからこそアピールできる内容です。
研究・開発では、今までにない新しいアイデアが大ヒットのもととなります。そのため、他の就活生にない独創性・発想力を持っていることを伝えることができれば、面接などでも評価の高い状態で選考をスタートさせることができます。
企業独自の設問と攻略
旭化成(技術系総合職・22卒)
旭化成の作文はキーワードは変わるものの、毎年出題されているため、実際の就活生の回答をもとに解説していきます。
内容としては研究に全く関係のない設問ですが、ここからいかに自分をアピールできるかが重要なポイントとなってきます。
右の9つのワードのうち3つ以上のワードを用いて、自由に文章を作成してください。物語、詩、自分の考えなどどんな内容、表現方法でも結構です。(200字以内)
< 科学/誠実/デザイン/雨/仮想/牛/ロス/#/IQ >
それでは、実際の就活生の回答を見ていきましょう。
日本では食品ロスが問題になっています。食品廃棄物を牛や豚といった家畜の餌にする取り組みもありますが、それでも食品ロスは年間六百万tに及びます。私は、科学の力を上手く活用できれば食品ロスを減らせると確信しています。例えば、食品梱包材の性能を上げて消費期限を伸ばす、AIを用いて仕入れ量を最適値にするなどが考えられます。社会問題に対し、科学を駆使して誠実に取り組むことが我々に求められていると感じます。
ロス・牛から、食品ロスの社会問題を題材にした評論ですね(キーワード:4)。
飛躍しつつある技術であるAIを盛り込むなど、理系的な考えが汲み取れる文章です。特に、「食品梱包材の性能を上げて消費期限を伸ばす」という具体的な案を出しているところはとても良いと思います。
一方で、このキーワードから食品ロスを思い浮かべるのはとても容易であり、実際とあるサイトのES体験談投稿では半数以上が食品ロスについてのものでした。研究・開発=理系の回答と考えてしまうと周りと同じような内容になってしまうところは独創性がやや低い印象です。
また、「科学を駆使して誠実に取り組む」というのは文書としてやや違和感があり、無理矢理キーワードを捻じ込んだように思えてしまいます。
社会問題は理系学生にとっては挙げやすいがゆえに、他の就活生と回答が被りやすいことに注意しましょう。
2100年某日。モビリティ社会はすさまじい発展を遂げた。主な移動手段は、牛である。東京大阪間は5分程だ。人類の英知を集結させて科学技術を発展させたが、牛の進化には及ばなかった。最近の若者の間では、なるべく早く牛を所有するのがステータスだ。私は、移動用の牛をデザインする仕事をしている。個人的には、ホルスタイン柄が好きなのだが、あまり人気ではないようだ。私も早く、普通牛免許(ギュウメン)を取得したい。
牛を題材にした物語の一節ですね(キーワード:3)。
「東京大阪間は5分程」という一文と、後半の「普通牛免許」という独自の単語など、200字という文字数の中でわざわざ入れる必要性がうかがえません。
また、「最近の若者の間では」から話の内容が転換しているため物語性に欠けています。200字という制限の中で、物語をある程度完結することを考えると、牛の進化について書くか、デザインする仕事について書くか、どちらかに絞って内容を深めるのが良いでしょう。
200文字という制限で物語を書くには相当高い文章力が必要です。もし書くのであれば、キーワードをを絞り、一つの内容を掘り下げて『結』まで持っていくことを意識しましょう。
人は皆、現実に生きながらもSNSという仮想現実でも生きている。SNS上で自分をよく見られたいがために、無理をして高級な◯◯を購入し、「高級◯◯!」と写真を付けてつぶやく人も少なくはないだろう。しかし、フォロワーからのいいねを得ることで、息抜きやストレス発散となるのだ。現実に生きながらも、仮想現実では自分が好きな自分をデザインする、それこそが現代人の生き方なのかもしれない。
#仮想現実に生きる現代人
#から、何かと話題になるSNSを題材にした評論ですね(キーワード:3)。
#=SNSという構図は簡単に思いつきますが、#をハッシュタグのように使い、SNSで呟いたように見せるというのは面白い発想です。また、見栄を張るために無理に高級品を購入する一方で、それによって安らぎを得られているという、現代の生き方のトレードオフな関係を的確に記載しており、考察力もうかがえます。
ただ、#をハッシュタグのように使うのであれば、文章もSNSのように書けると独創性がより出た気がします。
レイアウトであっても、独創的なアイデアは読み手にとってとても面白いと思います。こういう設問に限り常識を少し外れることは問題ないため、回答を工夫するのも一つの手です。
IQの高さだけが取り柄だった。雨の止まないこの仮想世界では、科学者である私など、もはや牧草を歩き回るだけの牛よりも役に立たないのだ。もう昨年の売上高のロス率など考える意味もない。#110番?そんなものに何の意味がある。人類でただ一人取り残された私に生きる意味はないのだ。いや、一つだけだけあるかもしれない。白と黒しか存在しないこの世界に、ありったけのインクを使ってオリジナルな世界をデザインしよう。
キーワードをひたすら使った物語の一節ですね(キーワード:8)。
キーワードを多く使おうという考えは良いのですが、前後の文章の関係性が無茶苦茶で、もはや物語としては呼ぶことのできない200文字になっています。文章に就活生としてのメッセージを込めることを理解できていないため、物事の本質を理解できない学生なのだなというマイナスの印象が強いです。
キーワードを多く使おうとして文章でなくなるのは本末転倒です。物語だからと言って自由に書いていいわけではなく、就活生として何を伝えたいか整理して文章を書くようにしましょう。
#をシャープと読む人を見かけるが、それは大きな間違いである。音楽記号の一つであるシャープ(♯)は五線譜と被っても見やすいよう横線が斜めになっている。このような例は記号に限った話ではない。例えば、牛と午(馬)という漢字は、これら二種が農耕に使われていたはるか昔、角のあるなしで分類されていたという背景を伺うことができる。そう考えると、デザインとはその時代や世界を知る重要な手掛かりにもなる。
デザインを題材にした評論ですね(キーワード:3)。
#をSNSではなく五線譜と組み合わせて♯との違いを簡潔に説明しており、文章中で使うのが難しい#が完全に文章に溶け込んでいるところはなかなか類を見ない素晴らしさです。さらに、「牛と午」からも、出題されたキーワードをうまく使って雑学に繋げており、知識の幅広さ・発想力に富んでいることが十分うかがえます。
また、文章同士の繋がりもとても自然で、デザインという結論に向けて200文字のスタートからゴールが一貫しており、とても読み易い文章となっているように思えます。
200文字で『なるほど』と思わせる文章はそれだけでとても魅力があります。また、前後の文のつながりを意識するなど、文章としての読み易さもとても重要ですね。
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